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2010年12月26日

《キリストの降誕》

説教者:
牧師 持田行人
聖書:
ルカ2:1〜20

  降誕後第1主日、クリスマス主日礼拝、洗礼式執行、
  讃美歌108,113,199、112、交読文36(イザヤ書11章) 
  聖書日課 イザヤ61:1〜11、?ヨハネ1:1〜2:2、マタイ2:1〜12、詩編21:2〜8、


 『光は東方より』来る、という言葉は、良く聞かれます。
わが国では、小泉八雲、ラフカディオ・ハーンがその代表作の書名としたため、とりわけ知られているのでしょう。欧米の文化の中では、その文化の源流をシュメール人の文化に求めたことによります。シュメールの都は名をウルと言います。といえばお分かりの方もおいででしょう。
創世記11:31にあるカルディアのウルのことと考えられています。
『テラは、息子アブラムと、ハランの息子で自分の孫であるロト、および息子アブラムの妻で自分の嫁であるサライを連れて、カルディアのウルを出発した。』

 ローマは、その文化の淵源を東方のシュメールに求めました。そのシュメール人たちは、自らを「黒い頭」と称し、さらに東からやって来た者を感じさせています。
ローマにとって、キリスト教も東から来たものです。キリスト教は、ローマにとって光であり、帝国を再生する力でもありました。
後の歴史家はこのような言葉を用いています。
『ローマは、三度世界を征服した。すなわち軍事、法典、キリスト教によって』

 軍事的には、重装歩兵軍団と陣地築造、攻撃・攻城具などに見られる優れた建設術。
後の時代、レオナルド・ダ・ヴィンチという人が現れます。『モナリザ』により不朽の名を残す画家と考えられますが、実は科学者であり、技術家でもあります。あらゆることに関心を示し、当時、最先端の業績を残しています。いまでもイタリアの伝統的技術です。
 
 法典は、後にナポレオンによって採用され、さらに世界の法治国家の理念とされ、具体的な法律にもなっています。明治日本も近代国家の法的骨組みをナポレオン法典に求めました。ローマ法の系列に入ったわけです。
 
 キリスト教は、エルサレムで始まり、西へ西へと進み、ローマ帝国の辺境から首都に至りました。この頃の宣教活動を担った最大の人物は、異邦人伝道のチャンピオン、パウロでしょう。
首都ローマから更に全世界へと、首都から辺境へと広められて行きます。
 16世紀に宗教改革が起こります。その後、対抗改革もあり、新・旧両教会は一層伝道的になり、新世界や東方世界にも広められました。
 パウロとルカ福音書の関係を考えて見ましょう。
福音書記者ルカは、マケドニア人の医者ルカである、と考えられています。
彼は、使徒16:6〜10に登場し、パウロをアジアからヨーロッパへ導き,招き入れる役割を果たしました。その後、パウロの同行者となり、医師の務めを果たしていたようです。このようなルカですから、パウロの信仰、福音理解、神学を良く学んでいる、と考えてもおかしくはないでしょう。

 パウロのキリスト降誕についての信仰は、?コリント1:26〜31、そして、ガラテヤ4:4などに表されている、と考えます。
「しかし、時が満ちると、神は、その御子を女から、しかも律法の下に生れた者としてお遣わしになりました。」

 神のご計画の時であった
 全たき人として生れた神の子である
 律法という神の恵み、神の御支配のもとに生れた

 ルカは、このような信仰を伝えられ、学び、自分自身の降誕物語を書いたのでしょう。
従ってその中心の事柄は同一である、そこへギリシャ神話的な情景を織り込んだ、と私は考えます。私たちはそれに迷わされることなく、告知される事柄の中心に目を向けるべきです。

 ルカの記した降誕物語は、羊飼いたちの登場と、天軍讃美を特徴とします。
1〜12節、羊飼いたちへの降誕の告知、
13〜14節、天軍讃美、
15〜20節、羊飼いたちの礼拝、
19節、マリアの反応『マリアはこれらの出来事をすべて心に納めて、思い巡らしていた。』
本日は、飼い葉桶と羊飼いたちのことに留めましょう。

 先ず、降誕の告知が羊飼いたちになされたことを考えてみましょう。
当時のローマ皇帝アウグストゥスが、住民登録をするように全世界に命令を下しました。
現代の人口調査は、国勢調査と呼ばれ、人口だけではなく、職業その他多くの項目を調べるようになっています。その目的は、国民の実情・実態を把握し、行政に反映させるためです。然し、聖書の時代には、そのような考えはありませんでした。人口と国力は比例すると考えました。
人口調査は、自国の力がどれほど大きく、強いかを内外に知らせるためのものでした。そして、服属を求める国々から貢ぎ物を得るためだったのでしょう。勝手に人口調査をしたイスラエルの王は、その傲慢の罪を裁かれました。
 皇帝アウグストゥス(BC27〜AD14)は、ジュリアス・シーザーの甥で、養子でした。
紀元前44年、カエサルが暗殺された時、18歳でしたが、アントニウスと組んで暗殺グループと闘います。その後アントニウスとも戦い、BC31年、アクティウムの海戦で彼を破り、最高権力を掌握します。BC27年、『アウグストゥス・尊厳なる者』の称号を得て、皇帝となった、とされます。彼は、自らの権力を示すために巨大な建築物を作りました。多くの神殿、道路、橋、競技場、劇場。これらは、同時に民衆を満足させるためのものでもありました。彼の住居は、宮殿と呼ぶには余りにもみすぼらしかった、と伝えられます。
 彼は、皇帝・インペラトールと呼ばれるよりも「市民の第一人者」、と呼ばれることを好んだそうです。それでも帝国の支配は、北は北海・ブリタニア、西はイスパニア、東はシリア、南はエジプト、チュニジアに至る大帝国となりました。

 このような皇帝です。建築物同様、自分の力を密かに確かめたかったのかもしれません。
御子イエスの降誕の時は、こうした人間が、自分の力を確かめ、それを誇ろうとする時に重なるのです。 ルカは、神の計画の時と考えました。

 マリアとヨセフは、ガリラヤのナザレを旅立ち、ベツレヘムを目指します。各自は、その住居地で登録することも出来たそうです。何故身重の妻を連れて旅することを選んだのでしょうか。ナザレからベツレヘムまで、直線距離でおよそ120キロほどの道のりです。
4キロ・一里・一時間と言います。健康で普通の状態での旅程です。
この二人にとって、決して楽なものではありません。聖霊に迫られての旅立ち、と言ってしまえば、それまででしょう。彼らは、生れてくる子供のために、その家柄・血筋を確かめようとしたのではないでしょうか。

 ベツレヘムは、『パンの場所』という意味です。ヨセフの父祖ダビデの出身地でした。
この地で生まれて来るなら、きっとダビデの血筋にふさわしいものになる、という夢を持っていたかもしれません。

 子供たちがクリスマスページェントをする時、宿屋の場面があります。
聖書では7節に短く書かれています。
「初めての子を産み、布にくるんで飼い葉桶に寝かせた。宿屋には彼らの泊まる場所がなかったからである。」
これだけの文章から、あれだけの場面を、誰が作り出したのでしょうか。物書きという人は、たいしたものだと感じます。どうして泊まる場所がなかったのか、考えさせてくれるのです。大勢のお客がいた、だれも譲ってはくれない、先に入った者の当然の権利だ、自分の安全は自分で守らなければ、というようなことでしょうか。人間社会のごく普通の考えが、生まれてくる子供に場所を与えなかったのです。
 ひとりの宿屋の主人、おかみさんかもしれません。考えてくれました。
家畜小屋は如何だろうか。掃除はしてあるし、結構温かいよ。人目は避けられるし。
ありがたい、ぜひともお願いします。良かった。

 ベツレヘムには、聖誕教会があります。入ったことはありませんが、地下に『聖誕洞窟』がある、とのことです。幅4メートル、高さ3メートル、奥行き12メートルほど。
宿屋や旅人の大きな家畜、小さな鶏などもいたでしょうか。風は充分防ぐことが出来ます。
家畜の体熱で、十分暖められています。
人の心や常識の冷たさも、ここなら乗り越えることができます。
神の御子の誕生に、こんなところしか用意できないのか、と思いました。父なる神、というけど大したことないな、と感じたこともあります。でも、どれほどに豪華な場所でも、御子にふさわしいとは言えません。御子のために最善の場所が、用意されました。
 ルカは律法に示される神の恵みを見出しました。

 さて場面が変わります。ベツレヘムの洞窟から東南へ少し行くと、羊飼いの原があります。
ここで、羊飼いたちが、羊の番をしながら、夜じゅう野宿をしていました。
そこへ天使が現れ、近づき、主の栄光が辺りを照らします。恐れる羊飼いたちに天使が語りかけます。「あなたがたのためにメシア・救い主がお生まれになった。飼い葉桶の中に眠っている。これがあなたがたへの徴である。」

 徴は、隠れた真理を見える形であらわすものです。神の御子が人と成り、救い主となられる。飼い葉桶で眠る嬰児のうちに、その確証を見出しなさい、と告げられました。
 すると天使と天の軍勢が、神を讃美します。
   「いと高きところには栄光、神にあれ、
   地には平和、御心に適う人にあれ。」
この讃美は、ルカ3:22で、再び語られます。ヨルダンのほとりで、洗礼を受けられたときのことです。聖霊が下り、天からの声が聞こえます。
   「あなたはわたしの愛する子、わたしの心に適う者」

 御子の降誕が、羊飼いたちに告げられたことには、どのような意味があるのでしょうか。
羊飼いたちの仕事は、命をかけて羊たちを守ることです。強盗、山賊、野獣と戦います。屋内よりも草原のような所で起き伏しします。水,草,安全な場所について知識を求められます。
三K仕事です。ヤコブの子ヨセフの時代、エジプト人の間で嫌われた仕事でした。今やユダヤでも嫌われる仕事になっています。学者や王侯・貴族、軍人ではなく、羊飼いたちに告げられました。神の憐れみは、このような者たちに向けられる、と教えられます。
 ルカは、最も低い人間の中に御子は生れ、崇められた、と信じました。

 最も低い者に神の恵み、ご計画は示されます。
仕事をつらく感じている者は、その同じ仕事に喜びを見出すでしょう。
現在、自分の状況に惨めさを感じる人もいるでしょう。御子イエスはあなたのそばにおられます。
認められていない、と感じている人もいるでしょう。御子イエスはあなたの全てを知り、見守っておられます。
肉体の弱さを感じているあなた、思うに任せない苛立ちがありましょう。あなたのために、救い主となるために御子はお生まれ下さいました。
 御子イエスの御降誕を喜び、共に感謝いたしましょう。祈ります。